「ええっ? 新車の香りの香水? 」


数十年前、宮崎のカーショップで店員は小馬鹿にしたように私を見ました。


「はい、そういう商品があるって聞いたんですけど」


「でも、あんた新車の香りって‥‥」


「あのー それは木の形をしてるみたいなんです」


「ええっ、香水が木の形をしてるんですか」


「なんか アメリカ製で‥‥」


「と、とにかく、ここにあるだけですから! 」



当時はクルマに夢中で、運転するのもカー用品を見るのも楽しくって仕方がない。友達との会話ももっぱらクルマの話でした。
そんなある日、友達の一人が
「クルマの香水で新車の匂いがするヤツがあるらしい」
と言い出しました。雑誌でみたそうです。
彼は国産のライムの香水をレビンにつけていました。
私は借りている親父のマークllのリアボードにレモンの香りを乗せていました。
トイレの芳香剤のような匂いのする彼のライムよりも、絶対私のレモンの方が上品だと内心思っていたのですが、みんな思い思いの車の香水をつけていて、その匂いを嗅ぐとそれぞれの友達を思い出したものです。

「ええっ、新車の匂いがする芳香剤?」

「なんかオレたちがつけてるボトル型の香水と違って、 木の形をしたペラペラのキーホルダーみたいなの。アメリカ製だって」

「でも新車の匂いって、どんな匂いなんだ?」

「さあ」

「気になるなあ 新車の香り‥‥」



そんなやりとりがあって、一人でカーショップで買い物をしたときに、店員に聞いてみたのが冒頭の会話。もう恥ずかしいったらなかったですよ。

アメリカ映画に登場する車のルームミラーに、木の形をした薄いシート状のものが、ぶら下がっているのをみたことがありませんか。アレがその商品。
リトルツリーという名前の芳香剤です。
れっきとした「Made in U.S.A.」で、映画に登場するということは、とてもポピュラーなものなんでしょう。

それから時は流れ、2021年。
私は再び宮崎にいました。
今度は「ハンズマン」というホームセンター。
東急ハンズのパチものかと腹を抱えて笑っていましたが、すごい品揃えで、噂によると軍手の片方だけでも売ってくれるスーパーショップとのこと。
たまたまカー用品売り場を通りかかった時、車の香水が並んでいて
「懐かしいなあ。まだこんなの売ってるんだ。みんなつけてたなあ」
などと懐かしがっていたら、すぐ隣に何十種類ものアレが下がっていました。

「ゲッ、こ、これは! 」
「スゲー、初めて見た! 結構でかいんだなあ」
興奮を抑えきれません。
「Black Ice」とか「Fresh Surge」といったどんな匂いがするのか想像もつかないラインナップが並んでいます。
「Leather(革)」なんてものもあります。要するに革のシートの匂いってこと?
などと謎は深まるばかりです。

「そ、そうだ、新車の香り、新車の香りは‥‥」
そして、ソレはついに姿を表しました。
New Car Scent‥‥おおっ、コレがアレか! あった! やっぱりあった!! 」

妙な感動が押し寄せてきます。

裏を見ると誇らしげに「Made in U.S.A.」の文字が。
今時、アメリカ製の商品なんて滅多にお目にかかれません。
しかも税金を入れてもたった298円。レジに飛んで行き即購入しました。

車の中で裏の説明文を読んでみると、外袋のビニールの一部をV字型に切り取り、そこから吊り下げ紐を出して下げる。袋から出すなと書かれています。
「映画ではみんな袋から出してたぞ。やっぱりアメリカ人は、バ‥いや思慮が足りないなあ」
などと独り言を言いながら、生粋の日本人の中年男は切り取り線に沿って丁寧に切り取り、表裏を考慮しながら、弟のアクアのルームミラーに取り付けました。

とにかく匂いです。ついに数十年越しの念願が叶うのです。

「? ?」

「何? この匂い」

「フローラル? いや違うな」

こんな匂いの新車乗ったことがありません。
いやアメリカ車は中古の助手席にしか乗ったことないか。
新車のアメリカ車はこんな匂いがするのかなあ。まさかなあ。
でもやはりというか、さすがアメリカ製品というか とても懐かしい感じがしました。

私が若い頃はそれはそれはアメリカ文化に憧れたものです。
Levisの501、Converseのバスケットシューズ、HanesのTシャツ、Hav-A-Hankのバンダナ、Key-Bakのキーキャリアなど今でも愛用しています。
ラフな作りなんですが、とにかく飽きが来なくて馴染むんですよ。
リトルツリーもそんなアメリカ製品の一つで、匂いはどうであれ何十年も作り続けられていることに驚かされます。

それにしても「コレのどこがリトルじゃ! 」とツッコミたくなるほどでかい。
さらに走行中はユラユラと揺れて運転の邪魔になります。
うーん、まさしく正しいアメリカ製品です!

とても懐かしい若き日の思い出でした。